「ワシ、たこ焼きにするわ」
行事の日のお出かけの際、ファミレスでのある利用者さんの一言である。
抹茶パフェ、ぜんざい、あんみつ等、お年寄りにもやさしいメニューは数々あるが、残念ながらこのファミレスにたこ焼きはない。
「まつりでも、ワシは、いつもたこ焼きや♪」
うれしそうに、そう話す利用者さん。確かに法人のまつりには、たこ焼きの屋台が出る。
そして、その列に並ぶ利用者さんの姿を何度か見た記憶がある。たこ焼きが大好物なのだろう。
その姿を見ていながら・・・、である。職員として店を選ぶときにピンとくるべきであった。
チコちゃんに見られたら「ボーッと生きてんじゃねーよ!」と叱られているだろう。
ここで、利用者さんにメニューに無いことを告げ、我慢してもらうのは簡単だ。
しかし、逆に、こういう時こそ、我々施設職員の腕の見せどころである。
どうしたものかと、窓の外を見ると、スーパーが目に入る。
(せや、ここにないなら、買いに行けばええやん♪)
ファミレスの店員さんに、持ち込みの許可を得て、隣接するスーパーに買いに走る。
利用者さんの笑顔を想像すると、自然に足取りも軽くなる。
惣菜コーナーで、8個入り299円のたこ焼きを見つける。続けてレジ横に電子レンジ発見。
温め終わった後の「チン♪」が今のこのウキウキ感を加速させる。冷めないよう猛ダッシュで戻る。
利用者さんに、無事熱々のたこ焼きを届けることができた。
ハフハフ言いながら、口いっぱいにほおばる姿。職員にとって最高の瞬間だ。
あやうく「ここには、たこ焼きありません」と、安易にケリをつけるところだった。
決められたケアを確実にすることは当然だが、もう一歩踏み込んだ、さらにその上の気遣い、
心遣いこそが介護のおもしろさであり醍醐味であり、利用者さんとの本当の関係性を築く第一歩である。
翌日、利用者さんから満面の笑みでこう言われた。
「ありがとう。たこ焼き、うまかったわ!」